SDGs INTERVIEW

主力の二輪・四輪部品製造からの発展 未来へ向けた新事業を創造する|やまと興業の取り組み
INTERVIEW #13

主力の二輪・四輪部品製造からの発展 未来へ向けた新事業を創造する|やまと興業の取り組み

やまと興業株式会社 常務取締役
宮城和弘さん

「ものづくりの街 浜松」を舞台に、二輪・四輪部品の製造を主力事業として展開する「やまと興業株式会社」。社名にある「興業」の由来となる「業を興す」という理念を貫き、創業以来常に新しい事業への挑戦を続けてきました。
自動車部品製造において培った業界トップクラスの技術力を生かし、未来へ向けた新事業を展開する同社の取り組みについてお話を聞きました。

プロフィール

宮城和弘

1972年、静岡県磐田市生まれ。神奈川県の大学で機械工学を学び、卒業後にやまと興業へ入社。自動車部品の研究開発や樹脂成形の金型設計、経理、センサー事業など様々な部署を経て、現在はマネージメントを担当。業務改善を通じた人材育成「業務改革プロジェクト」には、立ち上げ当初から現在まで責任者として携わる。2024年1月に常務取締役に就任。

「業を興す」常に新しい挑戦を
まずは、御社の事業内容について教えてください。
当社は、二輪・四輪のエンジン関連のパイプ製品と、ブレーキやアクセルのコントロールケーブルの製造を主力事業としています。そこで培った技術を応用し、常に新しい事業展開も続けています。この挑戦が、「LED事業」「センサー事業」「粉末緑茶製造」「会話補助装置開発」など、多岐にわたる事業へと発展してきました。

また、新しい知見を取り入れることで業界や地域に貢献できるよう、日本自動車部品工業会や商工会議所、次世代自動車センター、都田アソシエイツなど、様々な組織にも所属しています。
常に多角的に新しい事業に挑戦する御社の姿勢は、どこから生まれるのでしょうか?
創業者の小杉弘の「業を興す」という想いが、「興業」という社名にも込められています。常に挑戦する精神を持ち、その積み重ねにより現在の我々があります。

今年度、私たちは創業80周年を迎えました。この節目の年に掲げたのが「独創的な技術とものづくりで輝ける100年企業を目指そう」というスローガンです。新しい分野で画期的なものを生み出すと共に、既存のお客様のご要望にお応えできる技術を磨き続けることが重要です。「100年に一度の変革期」と言われる自動車業界において、独創的な技術で勝ち残りを目指しています。
「技術力を磨く」ことで、新たに生まれたものを教えてください。
例えば、パイプ事業においてはアルミの軽量化が求められるため、加工技術の向上が必要となります。部品開発の支援拠点「次世代自動車センター」との連携により、新しい技術開発を進めています。
また、ケーブル事業では、通常6ミリ径のケーブルを2.3ミリにまで細くし、軽量化・低コスト化を実現しています。
培った技術を活かし多角的事業展開へ
業界における先進的な技術を開発しているのですね。培った技術を元に多角的に展開してきたこの他の事業についても詳しくお聞かせください。
先述のとおり、私たちは二輪・四輪部品製造に加え、「LED事業」「センサー事業」「粉末緑茶事業」「会話補助装置開発」など様々な事業を展開しています。

LED事業は、弊社の創業50年の節目に記念事業としてチャレンジしたものです。第一弾として赤色LEDを使った夜の散歩時の安全ライトを発売し、その後、青色LEDを使った「チアライト(ペンライト)」を開発しました。

大手企業が開発に取り組み実現不可能と言われていた青色LEDを徳島の会社が世界で初めて開発に成功しました。その情報を聞きつけすぐに徳島県まで買い付けに行ったことを鮮明に覚えています。どこよりも早く商品化したことで、大手アミューズメントパークや芸能事務所、雑貨ショップなどに受け入れられ、アミューズメント業界における斬新なアイデア商品として広がっていきました。現在ではパイプケーブルに次ぐ柱の事業となっています。

また、LEDを活用してイルミネーション事業へも参入しています。電球が当たり前だった2001年当時、世界で初めてイルミネーションにLEDライトを導入し、多くの商業施設や家庭のクリスマスイルミネーションなどの空間を演出しました。この他にも、お祭りや仏壇用のろうそくをLED化した商品なども販売しています。

今はどの事業者にも地球環境への配慮が求められる時代です。ご存知のとおりLEDは、その発光効率の良さから省エネ性において非常に優れた製品です。それに着目していち早く事業展開したことは、今振り返ると「先見の明」があったと改めて感じます。

また、近年「イルミネーションのリサイクル」も新たなサービスとして開始しました。使用後のイルミネーションは焼却や埋め立てされてしまうことが一般的ですが、イルミネーションの製造に必要な「銅」は、2050年までに枯渇してしまうとも言われています。「銅」をリサイクルし、資源として再生させる取り組みを推進しています。
経営革新が健康と福祉への貢献につながる
本業とは全くイメージの異なる、「粉末茶事業」や「会話補助装置開発」も手掛けているのですね。
常に新しいことに挑戦する姿勢こそ、「やまと興業らしさ」だと考えています。挑戦とはすでにある枠に囚われず、全く異なる分野に飛び込むことでもあります。

粉末茶事業においては、独自技術により緑茶の茶葉を200ナノにまで微粒子化した粉末緑茶商品「なのの茶」シリーズを展開しています。ご存知のとおり緑茶は、様々な健康作用を持ちます。茶葉を超微粒子にまで粉砕することで、この栄養成分を効率よく体に取り込むことができます。

この技術で「べにふうき茶」を粉末化した商品「静岡県産オーラック緑茶べにふうき 微粉末スティック」は、2023年に「機能性表示食品」として認可されました。機能性表示食品とは、科学的根拠を基に機能性を商品パッケージに表示できる商品です。べにふうき茶葉に含まれる「メチル化カテキン」は抗アレルギー作用があるため、この商品を続けて飲むことで、花粉・ホコリ・ハウスダストなどによる目鼻の不快感を軽減させることができます。お茶処静岡の会社として「お茶の力」を信じ、多くの方の健康にも貢献したいと考えています。

また、この技術を応用して地元名産「三ケ日みかん」の果皮(みかんの皮)を粉末化した製菓材料も商品化しています。果皮に含まれる栄養成分「β-クリプトキサンチン」は、生活習慣病の予防や健康な骨を維持する上で有効とされています。通常捨てられてしまう果皮を粉末化することで、廃棄資源の活用につなげています。
会話補助装置として展開しているのは、どのような商品ですか?
「聴こえ♪ルンです」という会話補助機器です。話す人の声を自然な肉声に近い音量に上げ、スムーズに会話を楽しむためのコミュニケーションツールで、高齢者でも使いやすく、耳に入れないため疲れにくいのが特徴です。また、コロナ禍で飛沫防止板が各所に設置され声が届きにくい状況が増えた中、病院、金融機関、役所などでも活用されています。

静岡県富士市在住の草間裕司さんという方が、この商品の原型となる機械を開発しました。草間さんのお父さんは耳が不自由で、「補聴器は高い」「会話する時だけ使えるものがほしい」という思いがあったそうです。草間さんの同意をいただき、安全性や機能性をブラッシュアップして弊社で商品化・量産化を実現しました。

現在、家電量販店やテレビショッピングでの販売も好調で、2023年には静岡県から「経営革新優秀賞」を受賞しました。また、地元の病院や銀行に寄付するなど地域貢献にもつなげています。
カーボンニュートラルに関する、御社の取り組み事例を教えてください。
太陽光発電装置を各工場に設置することで、全量売電・PPA・自家消費を合わせて500kWhの発電を実現しています。また、軽量・高効率薄型パネルを導入することで、建物への負担を減らしながら同量の発電を可能にしています。

また、海外製発電機の代理店としての事業も展開しています。自社では、東日本大震災後における非常用発電とピークカットとして使用しており、地域の金融機関などにも納入しています。

それから、加熱装置に使用する大量の冷却水を再利用することでエコを実現しています。全社のCO2排出量を測定監視し、年間3%の削減を目標にしています。来年度からは取引先と協力し、スコープ3を指標とした監視も予定しています。
精力的な事業展開だけでなく、社内環境の改善による「働きやすい職場」へも注力しているとお伺いしました。
各事業所における職場環境の改善を広範囲で推進しています。エアコンの完備、仮眠室の設置、作業場における適正スペース確保など、社員一人一人が少しでも働きやすい環境で仕事に向かい合えるように考えています。

この改善により、赤字が続いていた事業の収益性改善ができ、黒字化に成功しました。社員がより良い環境で仕事に向き合うことで、結果として収益改善につながったと考えています。
人財の成長が会社を成長させる
人材育成における御社独自の取り組み「カイゼンチーム」とはどのようなプロジェクトですか?
やまと興業では人材を人財と表現し社員を財産ととらえ育成に注力しています。その一環として業務改善と人財育成を並行して行う社内プロジェクトで、立ち上げから現在に至るまで私が推進しています。2009年のリーマンショック時に余剰人財を活かそうと、9名でこの活動を開始しました。プロジェクトメンバーが改善余地のある製造ラインを担当し、テーマを設けて改善案を実行し、社長へプレゼンするという形式で行っています。現在までに113テーマを推進し、約4億円の成果を上げてきました。

メンバーは35歳までの社員を対象にしており、3年でプロジェクトを卒業するシステムになっています。課題解決を通して学びや達成感を得ることで、業務へのモチベーションも上がり、結果として社員の成長へとつながります。現在7期生が活動をしていますが、これまでに約40名が卒業しています。

この卒業生が中心となり、現在は「全社カイゼン活動」という新たな取り組みに発展しています。社内における一部の限定的な活動だったプロジェクトが、全社を対象としたものへと広がりを見せたのです。これにより、年間3000件の改善報告が上がり、毎年2億円前後の改善成果を実現しています。

自身が育成に携わった社員たちが、会社の中核を担うほどに成長し、その活躍が全社に波及しています。私にとって非常にやりがいと喜びを感じるプロジェクトへと成長しました。
改めて「人財」に対する思いを教えてください。
私たちのライバルは、何千億円もの売上げを誇るような大企業です。そんな中で勝ち上がるためには、技術だけでなく社員のモチベーションを高めることが大切です。そのために、社員一人一人に活躍の場を提供し、やりがいのある日々を過ごしてもらいたいと考えています。そして、自身で考える力・推進できる力を養い、それぞれが成長することに期待しています。これができれば、この先どんな壁にぶつかろうとも、きっと乗り越えられると信じています。
最後に、今後の展望についてお聞かせください。
当社は大々的にSDGsの実現へ向けた目標を掲げている訳ではないため、社員がバッジを付けたりもしていません。ただ、私たちの事業の多くが、結果としてSDGsの実現につながっていると改めて感じています。

大切なのは宣言することではなく、持続可能な社会の実現に向けて“行動すること”です。できることを積み重ねることで、より良い世界を作れると信じています。SDGsとは、バッジを付けることでも、企業イメージを良くするためのものでもありません。本質的なものを見据え、これからも新しいことにチャレンジしていきたいと考えています。
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