SDGs INTERVIEW

竹で家づくり 使うほどに脱炭素社会の実現につながる新建材の活用|日建ハウジングシステムの取り組み
INTERVIEW #11

竹で家づくり 使うほどに脱炭素社会の実現につながる新建材の活用|日建ハウジングシステムの取り組み

大阪代表 古山明義さん

東京と大阪にオフィスを構え、集合住宅の企画・設計・監理を行う「日建ハウジングシステム」。社内で“新しい暮らしの仕組み創り”を考えるチームを結成し、そこで「竹」を家づくりに利活用する新規事業がスタート。日本の竹は、地域資源でありながら適切に管理されずに問題になっています。しかし、消費することで里山保全につながり、木材に比べ繁殖力が強い竹は、使えば使うほど脱炭素社会の実現につながるエコな植物でもあるといいます。

今回、日建ハウジングシステムの大阪代表であり、設計士として活躍する古山明義さんに、⽵を使った新建材開発やそこからつながる地方創生についてお話を聞きました。

プロフィール

古山明義

1988年、武蔵工業大学大学院修了後、日建ハウジングシステムに入社。専門は建築意匠設計。入社以来、大規模・超高層を中心とした分譲集合住宅、マンション建て替えプロジェクト、企業社宅など、さまざまなタイプの集合住宅を担当する。設計を手がけた「渡鹿社宅(とろくしゃたく)」(熊本市)は「くまもと景観賞」(2010年)、「ローレルコート上本町石ヶ辻公園」(大阪市)は「グッドデザイン賞」(2019年)を受賞。住まい心地の良い集合住宅を作り出すことを第一に、設計活動に従事している。

また、日建ハウジングシステムの集合住宅に関する知識とノウハウをベースに、新カテゴリーや企画提案プロジェクト推進を担う「lid研究所」の「I3デザイン室」室長として、「竹」をテーマとした新建材開発や新規ビジネスにも取り組む。

「住空間のデザイン」という切り口で、新たな「コト」を起こす
まず、貴社の事業内容について教えていただけますか?
日建ハウジングシステムは、1970年に日建設計より分社・独立し、都市型集合住宅の企画・設計・監理および調査研究のエキスパートとして、社会に貢献してきました。具体的には、日本におけるマンションの原型を開発し、以降約12万戸を超える集合住宅を設計・監理してきました。
次の時代も持続可能な豊かな暮らしの実現のため、これまで住まいの専門家として培ってきたノウハウを生かし、時代の変化に対応しながらも、様々な観点から「暮らし」を高める仕組み創りができるよう、チャレンジを続けています。

そのチャレンジの一つとして、分社以来培ってきた集合住宅に関する知識とノウハウをベースに、多様化したニーズに応え、新カテゴリーや企画提案プロジェクト推進を行う「lid(life innovative design)研究所」を2016年に立ち上げました。
研究所ではどのような活動をしているのでしょうか?
lid研究所は、「L3(エルキューブ)デザイン室」「I3(アイキューブ)デザイン室」「D3(ディーキューブ)デザイン室」の個性豊かな3つのデザイン室で構成されており、それぞれ協力しながら、新たな価値を生み出すべく活動しています。

「L3デザイン室」は、ランドスケープやインテリアのデザイン提案をはじめ、近未来の住宅研究、新商品開発、ケアハウス等医療関連やシニア住宅など、「新たな住まい方の提案」を研究・立案する戦略的チームです。

私が室長を務めている「I3デザイン室」では、従来の集合住宅の設計監理業務にとどまらない、新規ビジネスの創出に向けたさまざまな取り組みを行っています。
代表的なプロジェクトとして、今回お話しする「竹」を活用した新建材開発など「住空間のデザイン」という切り口で、新たな「コト」を起こすような企画・設計に取り組んでいます。

「D3デザイン室」では、従来のCGによるプレゼンテーションだけではなく、VRを活用したり、社内メンバーで動画の撮影や編集を行ったりしています。
新たな「コト」として「竹」を活用した新建材開発を始めたきっかけは何ですか?
鹿児島県の薩摩川内(さつませんだい)市から、相談を受けたのが始まりでした。薩摩川内市は、竹林面積全国1位の鹿児島県の中で、最も広い竹林面積を有しています。

そもそも日本では、戦後多くの竹が植えられ、日用品や家具、建築材料などとして利用されていました。しかし海外から輸入される安価な竹や、安価で加工しやすいプラスチックに置き換わり、国内の竹の需要は減少しました。その結果、放置された竹林が山を侵食し、森林の荒廃や獣害の発生という「放置竹林」問題が全国で広がっています。

こうした背景から、地域資源であり地域課題でもある「竹」の利活用を進めるため、薩摩川内市と日建ハウジングシステムで「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」を2016年に発足しました。
「竹で家を建てる」とは驚きです。そもそも竹はどんな特徴を持つ素材ですか?
最近では知らない方も多いかもしれませんが、昔から日本では竹を日用品や家具、建築材料などに利用し、人々の暮らしの中に身近な存在としてありました。

竹は強度が強い上に成長のスピードも速く、根本を切っても約3~5年で成長し材料として活用できる有益な素材です。一方で木材の場合、一度切ると材料として再び使えるように育つまで少なくとも40年以上かかります。成長が早く、繁殖力も強い竹なら、今起きているような「ウッドショック」のような材料不足になることもありません。

また、竹は成長するときに大気中の二酸化炭素を吸収します。二酸化炭素を吸収する期間は1年程度ですが、吸着した二酸化炭素を外に出さないため、建物や家具などに使った後も二酸化炭素を蓄えることが可能です。つまり材料として使えば使うほど、脱炭素社会の実現に繋がるエコな植物でもあります。
地域資源であり地域課題でもある「竹」を使った「家づくり」
「竹」は家づくりに適した素材なのですね。プロジェクトにおける、具体的な竹の活用方法を教えてください。
まずは、日建ハウジングシステムの大阪オフィスを移転するタイミングで、エントランスを薩摩川内市の真竹120本を利用してデザインしました。天井は伝統技法「やたら網み」で仕上げ、壁は竹内部の節を見せる加工をした「柾割(まさわり)竹」を使い、同じ竹でも違う雰囲気を演出しました。

その後2017年から、竹を使った「集成材」を構造材として使うために、試作や試験を繰り返しました。「集成材」とは複数の薄い板を結合させた材料で、「構造材」とは柱・梁など、建物の構造を担う材料を指します。伝統工芸品だけで竹を多く使うことは難しいですが、工業製品である集成材なら、竹を大量に活用できるメリットもあります。
「そして竹集成材を構造材として活用するために、竹集成材の強度試験、各接合部の強度試験を実施しました。その結果、竹自体の強度が木材(杉)と比較して高く、さらに竹集成材は竹本来が持つ強度よりも高くなることが分かりました。
現在も薩摩川内の竹を構造材として利用する研究を実施しています。今後流通が進めば、竹を地産地消でき、一般の人が竹を使って家を建てることも実現可能だと考えています。
家づくりにおいて、構造材以外にも竹を使うアイデアを提案したと聞きました。
プロジェクトの進行中に、「竹セルロースナノファイバー」(以下、竹CNF)という素材の活用アイデアについても相談を受けました。「セルロースナノファイバー」とは、植物繊維をナノレベルまで細かくほぐすことで生まれる最先端の素材です。鋼鉄の1/5の重さで、強度はその5倍以上あります。

そこで、竹CNFを活用した建材を開発し、薩摩川内市の市営住宅で、熱の出入りが大きい「開口部のサッシ」「窓ガラス」「屋根・外壁」に実装し、約1年間の温熱環境の測定をしました。

結果として、夏期は約6.5%、冬期は約2.4%エアコンの積算電力量の削減効果が確認できました。新しい建材に加え、全て竹由来の家が作れる未来が見えてきました。
女性の声から生まれたウェア作りプロジェクト 建築にも通じる「マヲキル(間を切る)」
「竹」の活用以外に、女性を中心にはじまったプロジェクトもあると伺いました。
弊社は、多くの女性が活躍している職場ですが、作業着は男性サイズで身体に合わず、さっと羽織りにくいとの声がありました。そこで「着たいと思うウェアで楽しく働きたい」という女性のために、「SWITCH WEAR(スイッチウェア)」というウェア作りプロジェクトが生まれました。建築は「外側」と「内側」の間を仕切るものを作りますが、服も「自分」と「外」との間を仕切るものです。設計会社として、今回のプロジェクトはこの「間を切る」という考えを応用して取り組みました。

完成した作業着は、かさばらず軽くて、服の上から重ね着できることを最優先に考えました。建築資材でも使われる「タイベック」という素材を採用し、もともと生地にシワがあるので気楽に持ち運びができます。
自社内で使うだけでなく、オーダーメイドでも展開していると聞きました。
世の中に、自分たちのようにワークウェアに対して悩んでいる人がいるのではないかと考え、ワークウェアをテーマにワークショップを開きました。そこで、働く人や場所ごとに異なる悩みや要望があることを知り、ただウェアを作るのではなく、それぞれの課題を解決できるようなオーダーメイドのウェアの提案を始めました。

利便性から自社では「タイベック」を素材に使いましたが、これに限らず適材適所の素材を探し提案しています。また形についても、例えば過去にはエプロンを作ったこともあり、それぞれに寄り添ったウェア製作を目指しています。竹でできた布もあるので、マッチする場合には竹を使ったウェアの提案ができたらうれしいですね。
ありがとうございます。それでは最後に、これからの展望について教えてください。
まずは「竹」を活用していろいろなことが出来ることを、もっと多くの人に知ってもらう必要性を感じています。そこから需要が増え、資源として「竹」を使うことで、最終的には竹の伐採、加工などの産業や雇用が生まれます。竹に関わる人を増やし、地方創生へとつなげていくこと目指しています。

今回のプロジェクトは鹿児島県でスタートしましたが、全国で同じような問題が起きています。今後もこのプロジェクトで生まれたような、都市と地方とのつながりを活かし、竹の活用を広めていきたいです。今回の薩摩川内市と協力したことをきっかけに、これからも自分たちなりのアプローチで地域の課題解決に取り組みたいと考えています。
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