SDGs INTERVIEW

平等な国ノルウェーから学ぶ、幸せで豊かな社会の実現方法|ハルダンゲルヴァイオリニスト山瀬理桜さん
INTERVIEW #07

平等な国ノルウェーから学ぶ、幸せで豊かな社会の実現方法|ハルダンゲルヴァイオリニスト山瀬理桜さん

ハルダンゲルヴァイオリニスト
山瀬理桜さん

SDGsを成功に導くとき、自国・自社の幸せを実現するゴールを設定し、その達成を叶えるマインドを持たなければいけません。とはいえ、どんなゴールを持てばいいかと迷うこともしばしば。

そんなとき日本の枠を飛び出して、幸福度の高い北欧の取り組みを知ることは、大きなヒントとなるでしょう。国内外でノルウェー流の幸福について講演している、ヴァイオリニスト&ハルダンゲルヴァイオリニスト、吉本興業文化人の山瀬理桜さんにお話を聞きました。

※世界幸福度ランキング:ノルウェー5位、日本62位(国連「World Hapiness Report 2020」)

プロフィール

山瀬理桜

ヴァイオリニスト&ハルダンゲルヴァイオリニスト、作曲・編曲家。
桐朋学園大学音楽学部演奏学科ヴァイオリン科卒業。1992年より国内外のオーケストラと共演し、メディア掲載多数。2018年、ノルウェーハルダンゲル自治区の親善大使に任命。「北欧音楽や文化」をテーマに演奏や講演を行う。諏訪山音楽学院代表、吉本興業文化人所属。

楽譜のない伝承楽器から学んだノルウェーの国民性
ムンク美術館での演奏の様子
山瀬さんがノルウェーに興味を持ったきっかけは何ですか?
ピアニストの姉がノルウェー人と結婚したことです。そして私の大学卒業をきっかけに、ノルウェーのムンク美術館で姉とコンサートを開く機会をいただきました。そのコンサートが好評で、その後10年間も開催させていただいたんです。

活動のかたわらで、ハルダンゲルヴァイオリンというノルウェーの民族楽器と出会えたことも、私のノルウェー愛を育ててくれました。
ハルダンゲルヴァイオリンとは、どのような楽器ですか?
日本でいう琴や三味線のような位置づけの民族楽器です。日本でも北欧の音楽を紹介していきたいと思ったときに、自分自身が北欧の曲に詳しくならないといけないと思いました。いろいろ文献などを調べていくうちにたどり着いたのが、ハルダンゲルヴァイオリン。楽譜もなく演奏技法も伝承なので、よい先生に出会うまで3年もかかってしまいました。
演奏技法は伝承で、楽譜もないのですか!
そうなんです。でも私にとっていい経験でした。ノルウェーでよく通じるのは英語ですが、民族楽器の先生はご年配の方が多くノルウェー語を話されます。ハルダンゲルヴァイオリンを通じて国民性を学ぶこともできましたし、平等の大切さも楽器から得るものが多かったです。
平等かつ公平な「be quality」がもたらす幸福な社会
『ソフィーの世界』の著者であり、ノルウェーが誇る小説家のヨースタイン・ゴルデルさんと
山瀬さんがハルダンゲルヴァイオリンから学んだ「平等」とは、どのような価値観でしょうか?
たとえば、先生のことをファーストネームで呼ぶこと。国民同士の平等を重んじるノルウェーでは、「先生」という言葉がありません。そもそも国民の意思で敬語もなくしてしまいました。王国ですが、王様自ら自分のことを「(市民と同じ誇れる)農民だ」と言いますし、王様に対する敬語もありません。
どういった考え方から先生という言葉や敬語がないのでしょうか?
目的達成や合成性を大切にしているからです。ハルダンゲルヴァイオリンのケースを例にとると、先生は自分が敬われることよりも、生徒が早く上達できることに主眼を置いているんですね。

敬称や敬語を取り払ってしまえば、教わる側も委縮することなく教えを乞えます。つまり、生産性の高い時間の使い方ができるのです。
その平等性は何がルーツになっていますか?
ノルウェーはもともと、とても貧乏な国でした。冬は厳しいし、緑も少ない。生死に関わるほど厳しい環境で生きていくためには、仲間で協力しなければいけなかったことが背景にあります。

誰しも得手不得手がある中で、みんながそれぞれの仕事を精いっぱいがんばります。得た財産はみんながベストを尽くして、みんなで協力して得たもの。ですから、共同財産として平等に分配する文化があったのです。

平等であり、公平でもある。ノルウェーにおける「平等」は、公平もセットになった「be quality」という言葉で表現されます。
日本ではお互いを思いやる「和」の心を大切にしますが、ノルウェーではどのように協力しあいますか?
まず、みんな一つのチームだという意識があり、目指すべきゴールが共通しています。
ノルウェーという国が幸福で、子孫の時代によりよい国を残したいというゴールです。

その上で、幸福を実現する手段は、さまざまな意見を戦わせて決めます。徹底的に議論するんです。チームの中で争うことはあっても、裏切ることはありません。争うのは、より安全安心でベストな方法を見つけるためなのです。
1970年代に産出された北海油田も、ノルウェーは賢い使い方をしたそうですね。
大きな資源が発見されると、権力者の利権になってしまう国が多いですよね。ノルウェーではそうせずに、国民みんなの財産にしたところが賢い点でした。石油を販売して得た金額で政府の年金基金を作ったんです。基金の資金はアナリストが世界中の道徳的な企業に投資していきました。

つねに正しい投資がなされるように、資金の使われ方はすべて国民に開示されています。今では巨大な年金基金となり、ノルウェー国民1人あたりの資産は2,000万円以上になるそうです(※)。

※ノルウェー政府年金基金の運用残高は、2021年には約11兆クローネ(日本円で約203兆円/2022年8月29日現在で1ノルウェー・クローネ=18.5円で換算)を超えた。
それは安心ですね、老後の心配もなくなります。
そうですね!安心は、幸福を実現する大事な要素になります。幸せにはいろんな形がありますが、未来に対する不安がないことは、何にも代えがたい幸福だと私は思います。

しかも驚くべきことに、ノルウェーがこんな社会になったのは、ここ100年ほどのことなんですよ。「幸せなノルウェー」という未来をつねに議論し、ものすごいスピードで国が変わっていきました。

みんなで話し合って出した答えというのは、ベストでかつ強いもの。いろんな意見が融合しており、みんなが納得したものだからです。ブレないゴールに向かって「be quality」に意見しあう重要性を、私も肌身に感じています。
自分の人生を主体に、変わることを恐れないで
山瀬さんが代表を務める諏訪山音楽学院での授業の様子
私たちがノルウェー流の幸福を取り入れるとしたら、どんな考え方が参考になるでしょうか?
第一に自分の幸せがあって、次に仕事です。仕事を効率化して空いた時間を自分の幸せのために使っていけるといいですね。幸せの形はみんな違うので、自分の人生を主体とすることが大事です。

また、未来永劫続くようなよい国にしていこうとみんなが一致団結すること。そして、そのゴールを達成できる手段にお金を投資することでしょう。
日本人は周りの目を気にして足踏みしてしまう人も多いかもしれません。
もっと幸せになれる未来があるのなら、怖がらずに変えていく勇気も必要です。変えても変えなくても問題は起きますからね(笑)。
山瀬さんもバイオリンをお子さんに教える立場でいらっしゃいます。どのような教育を心がけていますか?
人間形成において大切な基本的な礼儀や生き方をお子さんたちに教えることが多いですね。学校や家庭以外にも信頼できる人がいるということで、「学校の先生がこう言うんだけど、山瀬先生どう思う?」と聞かれることがよくあり、私は自分の考えを素直に伝えています。同時に、「でも、これは私の意見だから、あなたがどう思うかを大切にしてね」とも。

進路相談や人生相談に乗ることもあります。お子さんたちがより豊かで幸せな人生を歩むきっかけになれたら嬉しいです。
素晴らしいご活動ですね。最後に、山瀬さんの今後の展開について教えてください。
北欧におけるSDGsの考え方であったり、幸福の捕まえ方をもっとたくさんの人に知っていただきたい。そのための講演を増やしていきたいと考えています。

幸福度の高い国がそうなった背景を知ることは悪くありません。ノルウェーは幸福へのヒントがたくさん詰まっている国ですから、ぜひ向き合っていただけたら。日本もより幸せになって豊かな社会を後世に残せるように、そのお手伝いができればいいなと思います。
ノルウェーの幸福の考え方、つかみ方について詳細を知りたい方は、山瀬さんのご著書『悪いのはお天気ではなく、着ている服だ(出版文化社)』をご覧ください。北欧の福祉・教育・文化、サステナブルなど、これからの人生を豊かにしなやかに生きるためのヒントが盛りだくさんの一冊です。

ご講演のご依頼は、吉本興業HPより。

参考:ノルウェーSWFは国民1人当たり2,000万円の余剰資金をプール(日本は1,000万円の借金) – ファイナンシャルスター
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